グローバル企業に「日本発」生かす
パソコンユーザーの多くは、ウィンドウズの基本ソフト(OS)をはじめ、インターネット閲覧ソフトや業務用ソフト「オフィス」など、マイクロソフト製品を毎日のように使っているはずだ。日本法人社長就任から2か月を経た樋口社長に、抱負と課題を聞いた。
品質向上を日本市場から
樋口 訪問したお客様やパートナー企業は350社を超え、マイクロソフトへの期待の大 きさ、責任の重さをあらためて感じています。技術者としてハードウエア中心ですが一部プログラミングも手がけ、日本の伝統的な会社と外資系企業での勤務、 直近ではユーザーの立場に加え、合併後の統合や再生の仕事と幅広い経験をしてきました。今回、原点に戻る仕事に就いたのを機に、パソコンソフトの品質向上 に貢献したいと思っています。
樋口 マイクロソフトはパソコンからスタートした会社ですが、今はバンキングシステム のような重大な業務も担っています。それに伴い、体制もサポートも充実させていますが、確かな信頼を得るには、何かトラブルが起きた時に電話1本で頼りに なる人がいるか、技術者の顔が見えてくるか、人の要素が大きなウエイトを占めます。社員一人一人が一流の人材になっていく必要があるでしょう。まだまだ進 化していかねばならないと思っています。
樋口 米国本社副社長は肩書きで、あくまで日本の経営が仕事です。ただ、日本は世界で いちばんパソコンソフトの信頼性への要求が高い市場です。日本の品質に対するレベルの高さを本社に伝え、日本市場でも受け入れられる品質レベルを確保する ことが、ひいては全世界での品質向上につながります。就任以来、米国本社に対して強く品質の重要さを訴えてきました。スコアカードという、幹部を評価する 項目に「品質」が初めて入りました。今ごろ初めてというのも恥ずかしいのですが、ようやく製品の品質向上への意識も変わってきました。
また、日本で、チーフ・クオリティ・オフィサー(CQO)という品質責任者を置いたところ、韓国でもCQOを置こうという動きになってきました。日本発の品質向上の取り組みが注目を集めています。
樋口 ハードウエアと異なり、ソフトウエアの研究開発は固定費がしめる割合が高く、各 国向け仕様を作るローカリゼーションはなかなか難しいのが実情です。ただ、日本の消費者向けの電子技術は、特にハードウエア面で進んでいます。日本を開発 拠点の一つと位置づけ、パートナー企業とアライアンス(提携)を組んでいきたい。パソコンのキーボードは世界標準ですが、日本では携帯電話のキーボードを 若い世代が見事に使いこなしています。例えばですが、これからのモバイル用OSやパソコンとの連携など、アメリカでは見えにくい面を、日本発で情報発信し ていけるのではないかと思っています。
オンラインサービス強化に新組織
樋口 ネットワーク経由でソフトウエアを提供して月額課金的に対価をいただく、というビジネスモデルは、どれだけ早く、どれだけ広がるかはわかりませんが、そういう方向性だと思います。ネットワークは今後、帯域幅が広くなるし、安くなるし、信頼性も高くなりますから。
でも全部そうなるかというと、決してそんなことはないでしょう。人事や会計など専用ソフトやデータを外部に出しにくいものがあり、ネットワークにつながっていない作業も発生します。そのときは、ソフトがパソコンの中に入っている必要があります。
マイクロソフトは「ソフトウエア+サービス」として、ソフトウエアと回線を通じたサービスが継ぎ目なくつながっていく形を想定してソフトウエアを開発しようとしています。
何か新しいキーワードが流行ったときに、そのモデルに一気に全部シフトする風潮がありますが、よく考えたらそうでもないな、ということがあります。「ソフトウエア+サービス」の世界も、ウエブと共存して発展していくんじゃないかと思います。
樋口 パソコンはもちろん、ポータル(玄関)サイトの「MSN」や、携帯端末用OSで ある「ウィンドウズモバイル」なども含めたインターネットという世界の中で、一般消費者向けの存在感を高めていこうとしています。そのための新しい組織 「コンシューマー・オンライン・インターナショナル(COI)」が7月に立ち上がります。
米国本社で全体をとりまとめるのが、前社長のダレン・ヒューストンです。日本の場合は、いろいろなディバイス(コンピューターの周辺装置)のメーカーがあるので、ほかの国とは違った部隊を持ち、きっちりカバーしていきます。
樋口 松下電器産業でもホンダでも、創業からあれだけ大企業になる過程においては、 リーダーが進化していると思うんです。単にベンチャー的なところから始まって、大企業までにする間にリーダー自身のスタイルが変化し、変化できないと会社 は経営者の器以上には大きくなっていかない。
会長のゲイツがソフトウエアに重きを置き、スティーブ・バルマーが経営を分担したことで、マイクロソフトは大きくなってきたのです。ゲイツ会長も 急にいなくなってしまうインパクトの大きさを十二分にわかっており、かなり前から、ソフトウエアに対する自分の考えを伝授していますし、今後もパートタイ ムながら、大所高所からソフトウエアのあり方とか、ソフトウエアの考え方の大きな軌道についてはきっちり見ていくはずです。かなり理想に近い形ではないで しょうか。とはいえ、マイクロソフトの「アイコン」であるビル・ゲイツがパートタイムということになると、それなりのインパクトはあると思います。
樋口 私はビジネスの顔なので、日本のIT技術者があこがれるような、もっとエンジニア魂を伝える顔が日本に欲しいと思います。
樋口 もともと私は、大学のときには手作りでパソコン作ったりして、ほっておくと自然にオタクになってしまうんです。そういう自分が嫌で、木を見て森を見ずにならないようにと自制してきました。だから、一人一人のエンジニアの気持ちまでわかる、と自負しています。
マイクロソフトはもっともっと強い会社にならないといけない。自然と売れていた時代もありましたが、今は、きっちりお客様の気持ちをつかんで、我 々の商品をきちんと説明して、商売させていただく基本路線を強化していかなくてはいけない局面にあります。その改革を社員が納得する方向で推進したいと 思っています。
樋口 皆で一緒に力を合わせてうまくいったとき。売り上げを達成して、「うまく行った」とみんなで喜びあいたいですねえ。
(YOMIURI PC編集長 稲沢裕子)
お客様視点に立ち、日本的な細やかさを取り入れた品質向上に取り組みます。
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